とても大雑把な「ウラン核分裂」の説明
以前、原子のエネルギーをベースに、
「放射線とは何か?」を、大雑把に書きました
とても大雑把な「放射線」の説明 - どっかのBlogの前置きのような
あれの最終的な目的は、
「ウランの核分裂で何が起こっているか?」だったものの、
そこまで書くと面倒冗長かなと思い、あそこで切り上げました
そもそも、原子のエネルギーは研究室の関連分野でしたが、
核反応までくると専門ではなかったこともあり、
それを書いちゃっていいものかな・・・と(´-ω-)
でも、一応は学部の授業で習った話ですし、
自分でもいろいろ調べたのもあるので、
前回同様、OUTPUTでより理解を深めることを目的にまとめてみます
最終的な目的は、「○○が検出された」というニュースに対し、
冷静に対処できるようになること、です
仕組みを知り、調べ方を知っていれば、
いちいちパニックにならなくて済みますからね(`・ω・´) b
なお、この記事は元々4月頃に書いていて、
誰も読まないだろうとお蔵入りしていました
でも、未だに「○○が検出」というニュースが絶えないので、
自分で整理する意味でも、公開することにします
時系列等が変だったらごめんなさい(´・ω・`)
前提
今回は「式」みたいなものがたくさん出てくるので、
先に記号とか約束事をまとめておきます
前回書いたように、原子は「陽子」「中性子」「電子」でできていますが、
「中性子(neutron)」を「式」の中で単体で出てくるので、
その場合は「n」と書くことにします
念のため、他も含めて書くとこうなります
- 陽子:p (proton)
- 電子:e (electron)
- 中性子:n (neutron)
頭文字を取っただけなので、簡単ですね(`・ω・´) b
あと、前回は同位体の話がメインだったので、
「原子核の中性子と陽子の合計=粒子数」がわかればよかったのですが、
今回はそれぞれ意味を持つので、以下のように書きます
元素記号(原子核の粒子数/陽子数) 例:C(12/6) 炭素(陽子6個)が12-6=6個の中性子をもつ場合
核反応の大前提
数学の恒等式や、化学式と同じように、
核反応の「式」でも「式の前後で原子核の粒子数は一定」です
(前回書いた「エネルギー保存則」と大雑把な考え方は同じです)
例えば、前回も書いた・・・
C(14/6) -> N(14/7)
・・・で考えると、中性子が一個陽子に変わってますが、
原子核として合計した数は14で変わってません
核反応あれこれ
この辺から徐々に難しめの話に入っていきます
ゆっくりいきましょう...φ(・ω・`)
一口に「核反応」といっても、いくつかの種類があります
一つずつ見ていきましょう
捕獲
前回も書いた、原子が安定するときに投げ捨てた「放射線」ですが、
それはどこに行ってしまうのでしょうか?
最終的にそれらは、他の原子核にぶつかって、
そこで取り込まれる(合体する)ことで止まります
これを「捕獲」といいます
特に中性子は、それを取り込んでも「同位体」になるだけで、
原子の性質が大きく変わるわけではないので、
比較的取り込まれやすいようです
例えば、宇宙からはいつも中性子が降り注いでいます
これを、地表の炭素が捕獲すると、こんな風になります
C(12/6) + n -> C(13/6) (安定) C(13/6) + n -> C(14/6) (放射性) C(14/6) -> N(14/7) (安定)
これが、自然界に放射性物質が存在する理由(の一つ)です
また、この例のように、中性子捕獲の結果、
原子が放射性同位体になることを、「放射化」といいます
一時期話題になった(らしい)放射性塩素Cl(38/17)は、
海水中の塩分(NaCl)に含まれる安定塩素Cl(37/17)が、
原子炉内で中性子捕獲して放射化したものだそうです
Cl(37/17) + n -> Cl(38/17)
原子炉内には(止まったとはいえ)いくらか中性子があるので、
こういった反応が起こるわけです
崩壊
前回も書いたように、坂の途中で落ち着かない原子が、
坂を転がり落ち、最終的に放射線を出して安定する現象を、
「(原子の)崩壊」といいます
崩壊といっても、原子の状態や種類が変わるだけで、
原子の数そのものは一個のままです
前回は省きましたが、崩壊にはいくつかの種類があります
代表的なものを挙げておきましょう
- α(アルファ)崩壊
原子から陽子が2個と中性子が2個飛び出す崩壊です
このとき飛んでいったものを「α線」といいます
例:Sm(149/62) -> Nd(145/60) + [He(4/2)] ※ヘリウムそのものではなく、ヘリウムの原子核
このように、粒子数が4、陽子が2減ります
陽子2個と中性子2個というのは、
言い換えればヘリウムHe(4/2)の原子核がすっ飛んでいくわけで、
他に比べれば「重い」放射線になります
重たいのであまり飛ばないですし、
大きいので紙一枚で簡単に弾かれてしまいますが、
当たると痛いので、細胞に直接当たるとわりと危険です
- β(ベータ)崩壊
非常に大雑把な言い方をすえば、
「中性子が陽子と電子に変わる」崩壊です
当然、原子は一個のままです
例えば、さっき出てきた炭素C(14/6)はβ崩壊しています
C(14/6) -> N(14/7)
粒子の総数が変わらず、陽子の数が一個増えてますよね?
すっ飛んでいくものは電子で、これを「β線」といいます
α線のように重くないので、そこそこ飛んでいきますが、
プラスチックの板一枚で防げますし、ダメージもα線よりはるかに小さいです
なお、核分裂でできた原子は、中性子が多すぎる場合が多いので、
釣り合いが取れるところまでβ崩壊を繰り返す、
つまり、粒子数が変わらないまま陽子が増えていく場合が多いようです
- γ(ガンマ)崩壊
不安定な原子が、自分の一部ではなく、
「光」に乗せてエネルギーを放出する崩壊です
このため、原子の種類等は一切変わりません
このとき出てくるエネルギーをもった「光」を
他同様に「γ線」と呼びますが、
「光」なので何かでブロックすることが難しい放射線です
体を簡単にすり抜けていきますし、
その過程で細胞を傷つけやすいようです
防ぐためには鉛や鉄の板が必要になります
レントゲンに使われるX線も「光」の一種なので、
γ線と似ていますが、エネルギーとしてはずっと低いものです
とはいえ、「放射線」の一種ではあります
分裂
一つの原子が二つ以上の原子や粒子になることを、
「(核)分裂」といいます
その意味だと、α崩壊やβ崩壊も「分裂」と呼べそうですが、
一般的にはα線(=ヘリウム原子核)より重いものを「分裂」と呼ぶようです
通常は、外から中性子を捕獲することで「分裂」するようです
一例として、原子炉の中で起こっている、
「ウランU235の核分裂」の中の一つはこんな感じになります(´・ω・)っ
U(235/92) + n -> Y(95/39) + I(139/53) + 2n (Y:イットリウム I:ヨウ素)
これはあくまで一例でですが、式の左右で粒子の数が一致してますよね?
こんな風に、一度の崩壊反応でより多くの中性子が生成されるので、
ウランの核反応が連鎖して、そのたびにエネルギー=熱を出す、
というのが原子力発電の原理です
融合
分裂の逆で、二つの原子核がくっついて一つになるものです
太陽の中で起こってるのがこれです
「崩壊」や「分裂」に比べると、無理矢理なイメージですが、
実際大量のエネルギーを必要とします
世界的なプロジェクトとして「核融合炉」ってのが研究されてますが、
まだ実用レベルにはほど遠いようです(´-ω-)
ウランU235の分裂と崩壊
さて、ここまでをふまえて本題です...φ(・ω・`)
原子炉の燃料であるウランUですが、
自然に存在するのは99%以上はU238というもので、これは核分裂しません
中性子を捕獲すると、よく聞く「プルトニウム」ができます
U238 + n -> U239 -> β崩壊 -> β崩壊 -> Pu239
原子炉の中には大量の中性子があるので、
よく原子炉の廃棄物としてプルトニウムが出てくるわけです
(自然界にもU238からできたPuが少量あるそうです)
ちなみに、ウランは昔から知られている鉱物で、
なんとガラスに混ぜて使うこともあったとかΣ(゚Д゚)ガーン
Wikipedia:ウランガラス
で、肝心の燃料になるウランはU235で、
自然界にごくわずかに存在するのを、
(2〜3%に)濃縮して燃料にしています*1
これが中性子を捕獲すると、分裂して中性子をいくつか出します
U235 + n -> ? + ? + n * 2〜3
じゃあ、この「分裂してできるもの」がどれくらいあるかって話なのですが・・・
なんでこれを調べたいのかといえば、事故から時間が経つにつれ、
聞いたことがない物質名が次々出てきたからです
(で、「だから原子炉が"再臨界"=勝手に動き出した」・・・と)
原子が存在することを調べるのはとても手間で、
放射線量が多いもの(例えばヨウ素I131)が他にたくさんあると、
それに紛れてしまい、少ないものが検出できなかったりするそうです
(ヨウ素I131の半減期は8日ですから、32日経てば1/16になっているはず)
つまり、「それなりの量生成され」「半減期の長いもの」であれば、
後から見つかっても何も不思議ではありません
ということで調べはじめたものの、
「どうせ多くてもたかが知れてるから、そこから崩壊パターンを書き出して・・・」
とか思っていたのですが、非常に甘い考えでした
たまたま見つけた資料によると、
「U235の分裂でできるもの」はこんなにあります(; д ) ゚ ゚
http://ie.lbl.gov/fission/235ut.txt
左が原子の同位体の名前、その次が半減期、
その次がよくわからなくて、最後がその原子が生成される確率です
つまり、最後の確率が高いほど、たくさんできる可能性があります
前回も書いたように、原子の世界では確率でしか決められないことがあり、
ウランの核分裂もこうして確率でしか決められないわけです(´-ω-)
ということで全部は不可能なので、wikipedia:核分裂反応に記載されている、
比較的生成される確率が高いものについて、
そこからどのように崩壊していくのかを書きだしてみます
- セシウムCs(133/55) (安定)
安定しているので崩壊はしないのですが、
中性子を取り込んで放射化するそうです
Cs(133/55) + n -> 中性子捕獲 -> Cs(134/55) (半減期2年) Cs(134/55) + n -> 中性子捕獲 -> Cs(135/55) (半減期膨大) Cs(134/55) -> β崩壊 -> Ba(134/56) (安定) Cs(135/55) -> β崩壊 -> Ba(135/56) (安定) Ba:バリウム
- ヨウ素I(135/53) (半減期6時間)
I(135/53) -> β崩壊 -> Xe(135/54) (半減期9時間) Xe(135/54) -> β崩壊 -> Cs(135/55)(半減期膨大) Cs(135/55) -> β崩壊 -> Ba(135/56) (安定) Xe:キセノン
話題になったI131と違い、こちらはγ線を出しません
そもそも半減期が短いので、もうほとんど残ってないと思われます
(実際、話題になってません)
- ジルコニウムZr(93/40) (半減期膨大)
Zr(93/40) -> β崩壊 -> Nb(93/41) Nb:ニオブ
半減期が膨大なので、存在したとしても、
ベクレル(Bq)の値は非常に小さい=Svも小さいはずです
ちなみに、ジルコニウムは燃料棒の被覆材料として使われているそうです
- セシウムCs(137/55) (半減期30年)
Cs(137/55) -> β崩壊 -> Ba(137/56) -> γ崩壊
話題のCs137です
崩壊したバリウムBaがγ線を出すため、
他に比べると体に影響が出やすいと思われます
- テクネチウムTc(99/43) (半減期かなり長い)
Tc(99/43) -> β崩壊 -> Ru(99/44) (安定)
あまり聞かない元素ですが、医療の分野では使われているそうです
ウランから生じたものは半減期が長いため、
放射線についてはあまり考えなくて良さそうです
- ストロンチウムSr(90/38) (半減期28.8年)
Sr(90/38) -> β崩壊 -> Y(90/39) (半減期2.6日) Y(90/39) -> γ崩壊 Y(90/39) -> β崩壊 -> Zn(90/40) (安定) Y:イットリウム
これも途中にγ崩壊を含むため、危険度が高いようです
Cs137と同じくらいできるのに、こちらが出てこない理由は、
気体として放出されることが少ないからのようです
- ヨウ素I(131/53) (半減期8日)
I(131/53) -> β崩壊 -> Xe(131/54) -> γ崩壊
これも話題になったI131ですが、
半減期が短く、しかもγ線を出すために、
事故の初期段階で(目立つ放射線を出すがゆえに)問題になったと思われます
数ヶ月経った現在、もうほとんど残ってないと思われるので、
逆にI131が「新たに」検出されるようだと、まずい状況の可能性はあります
情報に惑わされない方法
ここまでがウラン核分裂の原理的な話で、
ここからは応用・・・というか、流れてきた情報にどう対処するか、です
例えば、地震からちょうど1ヶ月の頃、どこかのジャーナリスト(?)が・・・
「テリリウム129が見つかったらしい。
(これの半減期は短いので)これは原子炉が再臨解している証拠だщ(゚Д゚щ) 」
・・・と、騒いでおりました
これをちょっと考えてみましょう
- 物質名をWikipediaで検索してみる
- 出てこなかったら、Googleで検索して正式な名前を調べる
- Wikipediaで当該原子のページを開く(wikipedia:周期表あたりからがおすすめ)
- ページ内の「同位体」のページを開く
- その同位体に解説があるか?
- その同位体の半減期を調べる
- 数時間なのか、数日なのか、何年なのか
- 解説がなかった場合、周期表で一つ前の原子を調べてみる
- 多くはβ崩壊なので、元々は一つ前の原子だった可能性が
- それはウランから生成されたものではないか?
- 違うならば、中性子捕獲が怪しい(例:塩素Cl(38/17))
「テリリウム」というのは正式名称ではなかったので、
ググったところ、「テルルTe」が正式でした*2
wikipedia:テルル / wikipedia:テルルの同位体
確かにTe129の半減期は「69.6min」とあるので、1時間強ですから、
これが「検出可能なほどに」存在しているとすれば問題でしょう*3
ただ、今回の場合、Te129は一種類ではなく、
「高いエネルギー状態のTe129」(mとついているやつ)が存在し、
これの半減期は「33.6d」、つまり一ヶ月以上あります *4
これは少々難しいケースですが、先ほどのウラン核分裂生成物のリストにも
「129Te-m」が存在し、それなりの割合(0.09%)生成されているので、
初期の放出に含まれていたものが、今検出されたというのは十分ありえる話です
本当に「再度ウラン核分裂が始まった」ならば、
そんなマイナーな同位体原子よりも、それよりはるかに生成率の高い、
I131やCs137が山ほど生成されて、それが各地で検出されるはずです
そもそも、原子によって検出の方法は異なりますし、
先ほども書いたように、他の原子が崩壊することで、
やっと検出可能になるケースもあります
外から新しい原子が入ってこない限り、放射性同位体原子は崩壊によって減っていくわけで、
増えない限りは初期の放出によるものと考えられ、
少なくとも「新たに問題が起きていないこと」はわかります
同時に、その「検出された」という情報が、
いつ採ったサンプルものであるか、というのも重要です
たいていは、事故当時のサンプルを分析していたら出てきた、
というものが多いので、情報として「今」出てきても、
それが「今の状況」を表しているとは限りません
今回はちょっと難しくなってしまったものの、
最低限、これだけのことを軽く知っておけば、
「何が起きているか」はだいたい判断できるようになります
「よくわからないから恐い」のであって、
仕組みを理解してしまえば、「正しく怖がる」ことができるはずです
他にも、専門家の方がいろいろ書いてますので、
参考にして見てください(´・ω・)っ
*1:参考までに、爆弾に必要な濃縮率は90%以上らしく、相当高い濃縮技術が要求されるとか。逆に言えば、原子炉が爆弾のように爆発することはない、ということです。もっとも、原子炉が壊れる原因はウランの「爆発」だけではないはずですが
*2:こういった情報はほとんど「正式名でない名前」で流れてくる場合が多いです。まあ、知らないからこそ、その恐怖感から情報が拡散しやすいのでしょうけども
*3:前回も書いたように、崩壊は確率で決まるので、存在する可能性は十分あります。ただ、それが何らかの手段で検出できる量なのかはまた別です
*4:この「高いエネルギー状態にある原子」を「励起状態(の原子)」と呼びますが、難しいので省略