ぱろっと・すたじお

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比較で見る「とりかへばや物語」(後編)

前編に引き続き、後編も漫画と原文を比較しながら、
とりかへばや物語」の展開について触れていきます


比較で見る「とりかへばや物語」(前編) - どっかのBlogの前置きのような


前編の時点で、漫画的には半分を過ぎていますが、
実は原文だとまだ1/3程度しか進んでいませんΣ(・ω・ノ)ノ
これは原文と漫画で、何に重きを置いているかの差があるからです


漫画は前半で原文と同じ展開をより掘り下げて展開しておいて、
後半は表面的には元の展開をなぞりながら、だいぶ創作を加えています


だからつまらない、ということではなく、
そのために前半でいろいろ仕込んであったわけで、
その意味でやはり完成度の高い話だと思います(`・ω・´) b


そもそも、原文のここからの展開はあまりにハードすぎて、
とても「少女向け」ではないのです
結果的にこの後編では、原文の展開がメインになります


各登場人物の表記ルールなどは前編を参照してください


女君の失踪


女君は姫の相手がが中将であることを知るものの、
それによって失踪したわけではない


漫画ではむしろ、女である自分の代わりに中将に姫を任せようと考えるものの、
中将の本命は女君なので、後ろめたさから女君から逃げ回り、なかなか話が進まない


そんなある日、たまたま宿直で一緒になったのをいいことに、
中将は「元々はお前が好きなんだぁぁぁっщ(゚Д゚щ) 」と、
女君に襲いかかるものの、未遂で逃げられてしまう


しかし、その手の知識の浅い女君は「そこで起こったこと」を、
「自分も妊娠してしまった(((((( ;゚Д゚)))))」と勘違い


おなかが大きくなれば全部ばれてしまうと考え、
弟に相談するも微妙に話がすれ違ってしまい、
親にも言えないので、そのまま失踪してしまう


このように、漫画版ではほのぼのとしたコメディ的展開なのだが、
原文ではもっと生々しい話になっている


姫の件が落ち着いてくると、色好みの中将は、
今度は男君に言い寄ってくるものの、男君は綺麗にかわしてしまう


そこで悶々とした想いを女君と語ろうと家に行くが、
女君の女っぽい雰囲気にあてられ、
「どうせならよく似たこの人でも・・・」とやっぱり襲われてしまう


違うのは、これによって女君が女であることが露見し、
女君と中将はそのまま関係を持ってしまうΣ(゚Д゚)ガーン


これでは自分の立場が危うくなると考えて、中将をうまく言いくるめたものの、
その後もしつこく関係を強要された結果、
ついに女君は中将の子を身籠もってしまう


中将は自分の別荘で女に戻って子供を産むように勧めるが、
それにいまいち納得できないまま時間が過ぎ、
見た目的にも限界と感じた女君は、しぶしぶ中将の提案を受け入れる


こうして女君は失踪することになるが、
漫画では笛を折っていき、原文では車の中で笛を吹いている
笛は男が吹くものだから、これで男の生活とお別れ、という意味らしい

女君の憂鬱


今をときめく女君の失踪に、都中が大騒ぎになるが、
そのさなかに中将と姫の関係が露呈し、姫は親に勘当される
(その原因は漫画と原文で違うが、原文の方がより「現実的」)


漫画では、女君に熱を上げていた主上がこれに激怒、
中将の宮中への出入りを禁止する


どちらも女君と縁の深い人物であり、その二人に裏切られて、
「大事な」女君が失踪した、と考えるのは当然といえば当然


姫の子供が生まれたのをきっかけに、主上は中将を許すが、
中将は心を入れ替えて、姫に対して一途になっていた
(このあたりがある意味少女漫画っぽいという気もする)


一方の原文では、このあたりの事情が複雑になる


中将の別荘で女姿に戻った女君であるが、髪の長さだけはどうしようもない
そこで、身の上相談相手だった「吉野の宮」からもらっていた薬を使い、
一晩で10cmも髪を伸ばした結果、なんとか女らしい髪を取り戻す


(「吉野の宮」は漫画ではカットされた人物で、
 前編の範囲で女君の出家に関して相談に乗っていて、
 失踪直前に会ったときもいろいろと薬を渡している)


多少無理矢理ながら、原文ではこれで「入れ替わり」が可能になるが、
漫画では「髪の長さ」の問題を、もっと現実的な手段で解決する
これが漫画の見せ場でもあるので、ここでは詳しく書かない


そんな折に、不義の露見により姫が勘当され、
他に頼る相手のいない姫は都にある中将の家に避難してくる


結果、中将は都と別荘を行ったり来たりで、文こそ寄越すものの、
なんとなく女君は面白くない状況に置かれる(´・ω・`)


そもそも、女君は素性を名乗り出ることができないし、
どうせ姫の勘当はすぐ解かれるから、
中将が後ろ盾の強い姫の方を重用するのは目に見えている


中将の手のひらで踊らされ、待つことしかできない状況に、
女君は出家を密かに決意するのだが・・・

男君、女君を探すため男に戻る


女君の失踪により取り残された宮中に取り残された男君だが、
原文では女東宮が懐妊したりということもあり、
男としての自覚がだいぶ出てきて、男に戻って女君を探しに行くと決意


「病気」と称して里下がりの許可をもらうと、
髪を切って男の姿に戻り、女君を探しに「吉野の宮」の元に向かう


一方の漫画版でも弟が姉を探しに行くのは同じだが、
もっと急を要する事態に追い込まれるΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)


女君の失った主上は、「元々の目的は乙女(現時点では男君)なんだから、
彼女を入内(=主上の妻にする)させれば」と思いつき、
有無をいわさず父親に命令を下す


こうなってしまえばもう断ることもできず、
今度こそ全部露見して終わりになってしまうため、
とにかくまず姉を捜すことが先決と、男に戻って捜索を開始する

姉弟の再会と入れ替わり


先ほども書いたように、漫画ではここからの入れ替わり劇がクライマックスであるため、
細かいことは書かないが、ここまでの流れを利用した展開になっていて、
非常に「うまい」結末を迎えることになる


一方、本当に妊娠してしまった原文では、
ついに女君は男の子を出産する


中将も喜ぶが、女君の無事を見届けると、
同じ時期に臨月になっていた姫の方に行ってしまう


そのタイミングで再会した二人は、今後のことを話し合うが、
出家したいという女君に対し、女東宮のことが心配な男君は、
入れ替わって女東宮のそばにいて欲しいと頼み込む


結局、それを承諾し、姫の出産を好機として脱出することにした女君だが、
産んだばかりの子と一緒に逃げるのは無理だろうと判断
身を引き裂かれる想いながら、「いつかまた会える」と信じて乳母に託す


吉野に脱出した二人は、宮中における各自の情報を交換し、
「男」「女」として必要な教養を身につけた後、闇に紛れて都に帰還
元々そっくりだった二人の入れ替わりに、誰も気づくことはなかった

女東宮の出産と女君の苦難


漫画は入れ替わりで終わっているので、
以下は全て原文の話になる
また、女君は完全に女として振る舞っている


二人が都から離れている間に、女東宮は臨月になっていた
一体これはどうしたことかと聞かれる(世話係として入れ替わった)女君だが、
うまいこと作り話でごまかして、入れ替わりがばれないようにする


同じ頃、主上はたまたま女君の顔を見てしまい、
「こんな近くにすごい美人がいたなんて・・・」と心を奪われる


そうこうしているうちに女東宮は子供を産むが、
産後の体調が思わしくないため、宮中から退出することになる


本来は世話係である女君も同行するはずだったのだが、
主上と父親、男君の間で(本人に内緒で)女君の入内が密かに決まっていたため、
理由をつけて宮中に留まらせた


そしてある夜、女君の元に強引な男がやってくる
最初は中将がまた来たのかと思ったが、
それが主上とするとひどく狼狽する


「事に及べば、自分が他の男と関係を持っていたことが露見し、
 そこから男として振る舞っていたことも全部ばれるかもしれない


 そもそも、自分は出家するはずだったのに、
 弟の言葉にしたがって戻ってきたのもまずかったし、
 女東宮と一緒に退出していればこんなことには・・・(´;ω;`) 」


・・・と、泣く女君を見て、主上は「なんていじらしい(*゚∀゚)=3」と誤解し、
さらに迫ってくるが・・・


「これを拒めば女としてここに留まることは難しいし、
 男の姿の時ですら、(中将に)力尽くで押さえ込まれたのに、
 女の姿の今、勝てる要素はない


 まして、相手は主上
 ここで大声を上げたところで、相手が主上とわかれば、
 誰も助けてくれないだろう・・・(´・ω・`)」


・・・と、冷静に考えつつ、結局主上の求めに応じることに


これで女君が「前に誰かと関係があった」ことがばれてしまったが、
主上は「これが父親が入内をずっと拒んでいた理由か」と誤解し、
「どうせ何人か知らない事実だし、美人だからいいか」と、これ以上追求しなかった

子供との再会


こうして、主上と「結ばれた」女君は正式に入内し、ついには男の子を産む
これが主上にとって初めての男の子ということもあり、
女東宮はお役ご免になり、女君の子が春宮に立つことに


これにより男君はますます力を増すし、
女君も国母として安泰・・・のはずなのだが・・・


思い出されるのは、中将の元に置いてきた子供のこと
(中将の子供として)たまに見かけることもあり、
憂鬱に思っていたところ、主上との間の子供と一緒にいるのを見かける


周囲に誰もいなかったこともあり、そばに呼び寄せて、
「あなたの母は私の知り合いで、ずっとあなたのことを想っている」と伝えるが、
子供の方はなんとなく雰囲気で「この人が母では?」と気づく


でも、「今日のことは誰にも言ってはいけない」という女君の言葉に、
いろいろな事情があるのを察した子供は、乳母にだけ
「母親らしく人を見た(けど誰とは言えない)」と伝え、誰にも話さなかった


一方の女君は、どちらも自分の子供なのに、
境遇の違いから一緒にいられないことを、ひどく嘆くのだった・・・



・・・というわけで、原文はひどく重たいというか、深い展開になってます


女君は男に間違われるほど活発で、頭がいい人であったにもかかわらず、
男社会の中で苦悩し、女であることを何度も思い知らされ、
社会的には「幸せ」と思われるところまで登りつめても、最後まで悩んでいました


今回は細かいところをかなり端折ってますが、
女と男が入れ替わってΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)するという面白い話の裏で、
当時の社会における「女」としての無情さみたいなものが織り込まれているわけです


たぶん、(例えば「姫」のように)何も考えずに流されちゃってれば、
ここまで悩まないのかもしれませんが、
なまじ頭が回るだけに、いろいろ考えてしまったのかもしれません


象徴的なのが主上に迫られるシーンで、
個人的にはこのシーンの心理描写がものすごく印象に残ってます


こうやって比較してみると、漫画がコメディとして綺麗にまとめている一方、
原文の流れは「平安文学」としてとても自然な感じがします


でも、漫画(というか小説)もこのあたりはわかっていて、
「悩み」に関しては頻繁に出てくるので、
このあたりの主軸を理解した上で、いろいろいじったんだろうな・・・と



そんなわけで、二回に渡って「とりかへばや物語」について書いてみましたが、
これに興味を持った方は、ぜひとも漫画や訳本を読んでみてくださいね(`・ω・´)ノ