ぱろっと・すたじお

技術メモなどをまったりと / my site : http://parrot-studio.com/

比較で見る「とりかへばや物語」(前編)

先日、ROのBlogで「男の娘」についていろいろ書きまして


「男の娘」を分析しよう - Angel, alone ~孤独な天使~


この中で軽く「とりかへばや物語」について触れまして、
これを読んでみたいな・・・と書いたところ、この漫画を紹介されました


ざ・ちぇんじ! (第1巻) (白泉社文庫)

ざ・ちぇんじ! (第1巻) (白泉社文庫)


少女向けにアレンジされた小説を漫画化したものなのですが、
これが「ドタバタコメディ」として非常に良くできていたのです(`・ω・´) b


ただ、大枠で展開は知っていた話*1と同じだったものの、
細かい部分が読者層に合わせて再構成されていたので、
「元の話がどうだったのか?」が気になりまして


そこで、衝動的に深夜に注文した本がこれです(´・ω・)っ



このシリーズで似たような訳本がたくさん出てまして、
他に4冊ほど*2買ったのですが、それはまた次の機会に回すとして・・・


そんなに厚い本でもなかったので、昨夜一気に読んだのですが、
あまりの完成度にびっくりしましたΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)


そもそも「とりかへばや」=「取り替えたいなぁ・・・(´・ω・`)」という意味で、
「男のような性格の女君」と、「女のような性格の男君」を、
それぞれ「男」と「女」として宮廷に出仕させてしまう、というのが大枠です


当然、ばれれば大騒ぎになるので、なんとかして隠そうと奮闘するわけですが、
漫画ではその様子に、各自の誤解や思惑を混ぜ込んで「コメディ」とし、
原文ではその境遇を「苦悩」として表現しています


特に、原文での女君の苦悩っぷりは半端ではなく、
妙に聡い上に男のような理性的な考え方を持つだけに、
「女」としての自分について常に悩み続けることになります


このあたり、源氏物語における紫の上の苦悩に近いものがありますが、
この時代の物語は女性によって書かれていると考えると、
女性の視点で深く心理描写されるのも当然なのかもしれません
(ただし、とりかへばや物語の作者は不詳)


・・・というわけで例によって前置きがめっちゃ長くなりましたが、
「漫画」*3と「原文」*4の描写を比較しながら、
どちらかといえば無名な「とりかへばや物語」の面白さを書いてみたいなと


なお、「男のように振る舞う女君」なんて表記は面倒すぎるので、
主な登場人物を以下のように書きます(´・ω・)っ

  • 男として育てられた女君:女君・姉*5
  • 女として育てられた男君:男君・弟
  • 女君の友人で苦悩の元凶:宰相中将・中将*6
  • 女君の結婚相手:姫*7


それなりに長い話なので、今回は漫画版の1巻の範囲で書いていきます


当然ながらネタバレのオンパレードなので、
ここまでの前置きで興味を持ったって方は、
この先を読まずに上記の漫画・訳本を先に読むことをお薦めします


女君の元服と出仕


漫画・原文のどちらも「逆だったらよかったのに(´・ω・`)」と父親が悩んでいるのは同じ
ただし、漫画での男君は確かに性格も体もは弱々しいが、女の格好を嫌がっている


漫画の冒頭で、自分を「元服」させてくれない父親に反発して、女君は山荘に家出してしまう
そこで水浴び中に「田舎貴族」に遭遇し、機転を利かせてやり過ごすものの、
実はそれが主上であった、というのが最後まで影響する重要なポイントになる


漫画でも原文でも、主上の命により女君の元服が強制的に決まってしまうものの、
原文では父親が「これも運命」と諦めて二人を成人させる一方、
漫画では男君の裳着(=女の子の成人)までするつもりはなかったが、成り行きでするはめに


実は、漫画での主上の目的は、「田舎で出会った乙女」であった
「乙女にそっくりな男(実は女君)」が見たくて出仕を急がせたのであるが、
実際にあって見るとあまりにそっくりで驚いてしまう
(そりゃ本人だし(´・ω・)(・ω・`)ネー)


それもあってか、相手が(表面上)男であるにもかかわらず、
主上は徐々に女君にのめり込んでしまう
(本能的には正しい反応だが・・・)

女同士の結婚


当時、(貴族が)成人すれば結婚までセットで考えるのが当然ということもあり、
原文では女君と姫との結婚話が持ち上がるが、当然ながら「女同士」であり、
「夫婦の営み」ができないことに父親は悩む


しかし、母親の「どうせ相手はうぶなお嬢様なんだから、
それらしく仲良くしてれば(営みがなくても)ばれやしない( ゚Д゚)y─┛~~」という意見に、
結果的に結婚を承諾する


一方の漫画版では、宮中で女君の結婚が(策略により)噂になり、
やきもちを焼いた主上が、事実確認のためにかまかけするものの、
それを女君が誤解し、姫を主上の無体から守るという名目で結婚を進めてしまう


漫画でも姫はうぶな箱入り娘だったので、「営みのいろは」について全く知らないが、
重要なポイントは女君も全くのうぶで、やはり「営み」について少しも知らなかったこと
これが後半に大きな問題になる

男君の出仕


ここで登場するのが「女東宮」
主上には男の子がいなかったため、一の姫を東宮に据えていたが、
この後見役として男君はどうかという話が持ち上がる


原文ではこれを父親が「運命か・・・」と承諾し、
男君は女東宮の世話を始めるが、それで男君の「男」が目覚めたのか、
女東宮と関係を持ってしまう


女東宮は子供の頃から隔離された場所で育っていたためか、
「見た目が女の男」と関係を持つことも、「そういうもの」として受け入れてしまう
(結果的に、実は男とばれなかった)


漫画版でも女東宮の世話役として男君の出仕の話が出てくるが、
そこに至るまでの過程が大きなポイントになる


姫との結婚以来、女君が姫のところに通ってばかりで面白くない主上は、
女東宮の世話係として男君を出仕させれば、
女君もまた宮中に通うようになるのでは、と思いつく


しかし、当の家族は大騒ぎ
女君はまだ「男」として振る舞っているからばれにくいが、
「女」である男君に主上が関係を求めてきたら全て終わりである


いろいろ抗議してなかったことにしようとした女君であったが、
「一切男君の部屋に近づかない」「住む場所も遠ざける」
「部屋に行くとしても女君と一緒」という条件を提示されて、断れなくなる


結果的に男君は女東宮の世話を始めるが、
「望まない境遇に押し込められている」という点で共通する二人は、
徐々に仲良くなっていく(関係は持たない)

姫の不義


ここまで出てこなかったが、女君には宰相中将という仲のいい友人がいる
ただ、彼はかなりのプレイボーイで、片っ端から女に声をかけていて、
当然のように(美人と評判の)男君にも「本気で」文を送りまくっていた


とはいえ、男君がそれに応えるはずもなく、やきもきしていたが、
この辺の表現が原文と漫画で異なっている


原文ではそのもやもやを女君と語ろうと、
(女君がいるはずの)姫の実家に遊びに行くが、当の女君は泊まり仕事で留守であり、
家に泊めてもらったところで姫を見かけ、思わず襲ってしまう


人妻のはずの姫が「まだ」であったことに驚くが、
女君が信心深い=俗世間にあまり興味がないからだろうと思い、
とりあえず問題にはしないものの、何度も関係を持つようになる


漫画でも男君に文を送りまくっていた宰相中将だが、
たまに見せる女君の「女らしさ」に、
「もしかして:本当に好きなのは女君?」という思いを抱く


その気持ちが抑えられなかった中将は、
「男でも女でもかまわない、無 理 矢 理 い た だ く」というわけで、
やはり女君がいると思われる姫の実家へ


しかし女君は男君出仕の準備で忙しく不在、そして同じように姫と関係を持つものの、
姫があまりに子供っぽい上に、営みのことも知らず、
しかも「手がついてない」ことに中将は狼狽する


こんなことがばれれば愛する女君に嫌われてしまう、と考えた中将は、
しばらく家に引きこもってしまう


一方、「男」を知ってしまった姫は、
漫画・原文のどちらにしても、中将のことが忘れられなくなった上、
中将の子供まで妊娠してしまうのであった


周囲は当然女君と姫との子だと思うが
当の姫は不義の子供なので本当の父親(=中将)のことを口にしないし、
すでに心は中将にあるため、二人の関係は破綻し始めるのであった・・・



というわけで、今回は漫画の1巻の範囲で、
原文と漫画の比較をしていったわけですが、
ご覧の通り、この時点では漫画の方が深く心情に踏み込んでいます


それは漫画の「ラスト」に向かって数々の伏線を張っているからなのですが、
これ以降はだいぶ原文の方が「深い」方へ向かっていきます


もう一回で書ききれるかな・・・(´・ω・`)

*1:Wikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%8A%E3%81%8B%E3%81%B8%E3%81%B0%E3%82%84%E7%89%A9%E8%AA%9E

*2:他に枕草子紫式部日記和泉式部日記・蜻蛉日記

*3:前述の通り、正確には「小説の漫画化」だけども、小説までは読んでいないため、「漫画」と表記

*4:訳本には「全文」が載っているわけではないし、解釈も人によって違うとは思うけども、わかりやすいのでこう表記

*5:原文ではどちらが上との記述はないが、漫画の表現がわかりやすいので引用

*6:原文では(女君も)出世に合わせて呼称が変化していくが、これも漫画版に従う

*7:原文では四の姫、漫画では三の姫とされているが、なぜ変えたのかは不明